◎2016年8月20日に小田原駅ビル「ラスカ小田原」で開催されたイベント
「かながわ酒&農マガジンgoo-bit×ビブリオバトルin 有隣堂 ラスカ小田原」~ぐびっといこう!神奈川の酒・農と本を味わう会~
の第2部で行われたトークセッション「酒農会談」の模様をまとめました!
第3回をアップします!(2017.8.22)
米山 ホントの燗酒というのは、うちの場合は7000L、8000Lのタンクで、短いもので約1年、長いもので2年寝かせる。よく酒が「枯れる」と言うんですけど、あのでっかいタンクで小さい澱が下がってくるにはだいたい10日くらいかかるんですよ。でもホントに見えない粒子が下までくるのに約2年かかる。
そこにある「丹澤山 麗峰」という酒はタンクで2年、瓶内で1年の計3年寝ています。3年かかった酒のすごさ。それはやはり「燗冷まし」になって飲める酒、これが燗酒だと私たちは思ってますね。
普通は燗冷ましになると、料理屋さんだと料理酒に使ってみたりする。でも逆に言うと、その燗冷ましになって「旨くない」酒を料理に使って、それで旨いと思ってんのか!? と。だったら最初から旨い酒を使いなさいよ、というのがうちらの考えです。
またこの夏の暑い日に「何で燗酒なんだ!?」と思うでしょうけど、冷や酒を飲むとすごく疲れる。いくら良い酒でもずっと冷やで飲んでると間違いなく次の日に頭が痛くなる。でも最後の一杯でいいから燗にしてみる。多分、次の日に残るってことはほぼないです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
よく蔵に来たお客さんに話すのですが、例えばラーメンを食べに行って一口目に「味が濃くて旨い!」と。でも半分くらいで「ちょっと重たいな」。スープも飲めない。多分それはその人にとっては合わない食品ということ。
1年後にそのラーメン屋さんに行ってそれを頼むか? というと、もう頭の中に入っているので多分食わない。逆にすごく薄味だけど最後までスープを飲み干せた、すごいパンチがあるわけではない、でも1週間くらいしてその前を通って「もう一回行ってみようかな」というのはその人にとって合ってるもの。
うちが狙っているお酒はそこのラインですね。目立つわけではないけど、知らず知らずにお姉さんとかが手酌でいってしまう酒。「あ、やべ。手酌でいっちゃってる」みたいな(笑)。それにはやっぱり一番大事なのが吸水。吸わせすぎてしまったら、今度は削るしかない。逆に吸わせなかったら渋かったり、味が出ない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
でもそういう酒は今度は寝かせればいい。そのときはダメでも3年後、4年後にどうなるか。お酒はどんどん変化するので。
だからよくうちに試飲にきて、「コレ好き」「コレ嫌い」と言う人はいるんだけど、お酒は今この時点で決めるものではないです。進化してるんです、どんどん。今日、口(お酒の栓)を開けた時点から進化が始まる。モノによっては劣化が始まる。それを見極めてもらって飲んだ方がいい。
だから、開けてすぐ飲んだ方が旨ければその酒は“旨い”んですよ。ただ次の日に飲んで劣化してたら、その酒は「今日、飲み切りなさい」という酒ということ。そういうのをこれからは飲むときに「あ、これはすぐ味が変化するタイプだな」とか「逆にこっちは少し放っておいた方がいい」と言って楽しんでもらえれば。
ウチの酒は、夏場でもその辺に放っておいた方がうまいんです。本当のことを言って。
それは、それだけきっちりした「麹」を作っているということ。普通はだいたい二昼夜、48時間かけて作る。うちはもう少し長く時間を取っています。酒造好適米は真ん中に心白がある。表面は硬いけど中は軟らかい。だからそこに向かって、少しある水分をめがけて麹菌が入り込むわけですね。
ただ飯米、「ひとめぼれ」なんかはそうなんですけど、食べる米には真ん中に何にもないんですよ。全てが硬いんです。だから麹菌が入り込むように、大吟醸よりも時間かけてます。だから蔵人はホントに命削って造っている米ですね。
これから酒造好適米、山田錦なんかももしかするとうちらの蔵に数が入らなくなるかもしれない。地元でも「さとじまん」とか「キヌヒカリ」とか作ってますので、もしかすると何年後かにそういうお米で酒を造らなくてはいけない日がくるかもしれない。そういうときのために蔵としては日々努力というか、挑戦をしていかなければいけない。
一つのものを常に造り続けるというのが一番大事なことなんだけど、チャレンジはしてますね。「5年後、10年度はこういう形にしたいな」ってビジョンはある。そこはブレずにいこうかなと思っていますので、今後ともよろしくお願いいたします!(拍手)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
鈴木 ありがとうございました! では試飲会のときにご質問などしていただければ、お話しいただけると思いますので、一旦この場は終了したいと思います。総合司会の市川さん、お願いします。
市川 はい、ありがとうございました! もうついつい聴きこんでしまう、普通のお客さんの一人と化していました(笑)。楽しいお話、そして真摯に造り手の想いを聴かせていただきました。では、最後にひと言ずつどうぞ。
米山 9月1日より若水を100%使った「丹沢山 純米吟醸 ひやおろし」というのが出ますので、ぜひまたどこかで見ましたら。今日のラインナップは協力してくださいました成城石井さんに全てありますので、忘れないうちにすぐに下に降りて買っていただければと思います(笑)。どうぞよろしくお願いいたします。
工藤 もうすぐ欣三さん、智子さんたちの田んぼも稲が黄色くなってきます。おそらく10月の声を聞くころに稲刈りがなされるんじゃないかと思います。刈られた稲が蔵にやってくるのはそのあとなんですが、私たちはお盆が終わるとちょっとお尻がムズムズしてくる感じ。
もう穂が出そろっていて少しずつ垂れてくる時期なので、田んぼを見かけると「そろそろ今年も造りのシーズンがやってくるな」と思って、私たちとしては準備を始めたり気持ちも体も整えていくという時期です。また11月から新しい酒造りが始まり、12月頃から新酒が市場に出始めます。
「今年の丹沢山どう?」と思って、ぜひ成城石井さんなどで買っていただき、「こういうお酒なのか」と思っていただければと思います。ありがとうございました。
福嶋 今年は台風がすごく多いと言ってたので倒れないように、美味しいお酒がみなさんに届くように一生懸命刈って、頑張ります! ホント女ばっかりでいないんですよ、男手が。ウチの主人もお休みの日はやってくれるんですけども・・・
米山 (鈴木を)使ってください(笑)。
福嶋 ホント助かってるんですよ。川西屋さんもみなさんでお手伝いに来てくれたりだとか、遊び半分だって言いながらもけっこうみんなガチで。私たちも「やってごらん!」みたいな感じで(笑)。
頑張ってお米を作って、美味しいお酒やご飯になるように一生懸命やって・・・父もそうやってやってきましたので。ちょっとバカにしちゃいましたけど、ホントはすごくカッコよくて素敵な父なんです。私も生まれ変わったら父と結婚したいっていうくらい。見習ってやっていきたいと思いますので、川西屋さん、これからもよろしくお願いします。
鈴木 熱いビブリオバトルを見て、熱いトークを聴き、最後に熱いお燗酒を飲んで帰っていただければと思います。本日は、本当にありがとうございました!
市川 はい、ありがとうございました(拍手)。では以上を持ちまして第2部「酒農(しゅのう)会談」をお届けしました!