◎2016年8月20日に小田原駅ビル「ラスカ小田原」で開催されたイベント
「かながわ酒&農マガジンgoo-bit×ビブリオバトルin 有隣堂 ラスカ小田原」~ぐびっといこう!神奈川の酒・農と本を味わう会~
の第2部で行われたトークセッション「酒農会談」の模様をまとめました!
◎酒米農家・福島さん、川西屋酒造店・米山さん&工藤さんによる熱い(!?)トークが繰り広げられております。特集記事として3回に分けてアップします!!
※まずは有隣堂・市川紀子さんによる4人の登壇者紹介がありました。
◎総合司会 市川紀子さん(有隣堂 社長室社長特命担当)
◆米山繁仁さん (川西屋酒造店 工場長)
◆工藤恵美子さん(川西屋酒造店 蔵人)
◆福嶋智子さん (酒米「若水」農家)
◆鈴木啓二朗 (フリーマガジン「かながわ酒&農マガジンgoo-bit」発行者)
市川 それではよろしくお願いします。ここからは鈴木さんにマイクをお渡しして進行もお願いしたいと思います。
鈴木 はい、よろしくお願いいたします。今回「お酒」がテーマということでホントにバトラーのみなさまがお持ちになった本を全部読みたいと思うご紹介でした。
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※この日紹介された本は下記4点。
チャンプ本に選ばれたのは、『泥酔夫婦世界一周』でした。
★『泥酔夫婦世界一周』松本祐貴 松本友紀子/オークラ出版
☆『クロ-バ-・リ-フをもう一杯』円居挽/KADOKAWA
☆『鬼平犯科帳-鬼火 17 新装版』池波正太郎/文春文庫
☆『こどものためのお酒入門』山同敦子/イースト・プレス
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鈴木 ウチの夫婦もたまに泥酔しちゃったりするんですけど、川西屋さんが造るようなすばらしいお酒を飲み始めた頃から、あまり泥酔をしなくなりました。それはやはりお酒に対する敬意ですね。それと、その前段階でお米が農家さんの手によって作られているということ。
米作りや酒造りの世界を少し覗いてみると、ホントに味わい深くて美味しくて尊敬の対象にもなって。でもやっぱり楽しく飲めばそれでいいのかな、なんて思っております。
「かながわ酒&農マガジンgoo-bit」というのは、神奈川県内の日本酒やビール、農産物やそれを作る人を紹介するフリーマガジンです。1号、2号と出して3号目に南足柄で酒米の「若水」という品種を作っている加藤欣三さんを紹介しました。
登壇されている皆さんも欣三さんとのご縁が深くて、それぞれの想いがあるんじゃないかなということで、その辺を伺いたいと思います。まずは川西屋酒造店の工藤恵美子さんにお酒の特徴や蔵自体のことをご紹介いただければと思います。
工藤 こんにちは、川西屋酒造店の工藤です。今日はご来場いただきましてありがとうございます。小田原ラスカ有隣堂さんや、成城石井さんのご協力で今回の会が実現しまして、私たちしらっと「小田原の人」みたいにして座ってますけど、実は川西屋酒造店は小田原市内の蔵ではありません。
同じ神奈川県内の西部の方ですけど、山北町といって峠を超えるとすぐ御殿場の方、静岡県の方につながるもう神奈川の西北の一番端っこにある自治体に私たちの蔵はあります。
日本酒を造る酒蔵で、我々が造るのは中でも「純米酒」といって原料は米と米麹と水。それだけを使っています。年間の製造石数は一升瓶換算で7万本。日本酒を造るのは冬の寒い時期だけに限られていて、うちの蔵では11月から3月までの5ヶ月で7万本の純米酒を造っております。
今日はお燗の設備を持ってまいりました。窓際に並んでいるのは全てお燗で美味しく、しかもお料理と寄り添いあって酒も料理も美味しくするお酒。「食中酒」と私たちは言うんですけど、食事と共に楽しんでいただけるお酒を造っている蔵だと認識していただければと思います。
福嶋さんのお父様の欣三さんは蔵からクルマで10分くらいの南足柄市内の田んぼで作ってらしたので、私たちにすると一番身近な米農家さんが若水を作ってくださっている欣三さんご一家だったという形です。
鈴木 ありがとうございます。加藤欣三さんは残念なことに昨年の11月にお亡くなりになってしまいまして、本来であれば欣三さんもこういった場に来ていただければ良かったのですが、今日は娘さんの福嶋智子さんにおいでいただいております。
では福嶋さんに酒米作りは食べる用の飯米とどんなふうに作り方が違うのか、もし違いがありましたらお聞かせください。
福嶋 そうですね、作り方と言っても結局、機械で植えて機械で刈って、その間の管理もほかの米とほとんど同じような感じなんです。お米の先に毛が生えていたり、背が高いです。中に入って見るときにちょっと顔を入れただけで顔に刺さるみたいな(笑)。
水の管理は母が毎日見て回ってますね。今の時期はあまり水がいっぱいになってると良くない。稲を倒れなくするために水を減らして根っこを強くして根を張らすとか、そういう風にして。
鈴木 とにかく倒れないようにするというのがポイントなんですか。
福嶋 そうですね。はい。
鈴木 欣三さんのことなんですけども、どういったお父さんでしたか?
福嶋 去年の春に病気がわかって、ちょうど(取材に)来られた頃だと思うんですけど。それまでは農協の理事をやったり、消防団長をやったり、仕事もするんですけどとにかく忙しくて。「今日は会議だ、今日は会議だ」とあまり家にいなかった。
仕事もするんですけど、結局してたのは母でしたね。春にわかったんで、1年間は田植えのときもホントにちょこちょこっと乗るくらいでした。あとは具合悪くて疲れちゃってたんです。
そうですね、父がいなくなってもまるっきり同じ量ができてるんで「あんまりやってなかったな!」ってことに気が付いてしまって(笑)。母と「あれ、終わっちゃったね」とか、妹も鎌倉にお嫁にいってるんですけど土日の度に来てくれて「あれ、パパいなくてもなんとかなっちゃってるよね」って。知識はすごいあった。だからホント死んじゃったときに「脳みそだけ残してくれ」と(笑)。
お米って年に1回しか獲れないじゃないですか。それでだいぶ前ですけど、どうしてそんなにお米のことに詳しいの? ってわからないことだらけだから聞いたんですね。すると「俺だって50回くらいしか田植えをやってないんだよ」って言われて。少ないと言えば少ないんですよね、回数で言えば。
鈴木 そうですよね。
福嶋 で、この間妹が言ってたんですけど、妹の家はハウスでトマトをやってるんですね。そうすると年に3回(収穫できる)。10年やればすごい数になりますよね。それなのに妹の旦那さんは「まだそれしかやってないから。ホウレンソウ農家のうちなんか年に5回獲れてる」と(笑)。
「笑っちゃうね、パパまだ50回しかやってなかったんだね」なんて言って。結局、年に1回だから失敗できない。失敗すると1年がまるまる失敗になっちゃうので。だから難しいと言えば難しい。1回植えたらいくら曲がってようが引っこ抜くことはできなくて、稲を刈るまでもうずっとそのままなんで。
鈴木 そうですね。ちょっと田植えを手伝わせていただいたのですが、ウネウネしちゃうんですね田植え機が。では、ここでちょっと米山工場長に欣三さんについてのお話、また若水という酒米はお酒の造り手から見てどういう特質があるのかを伺いたいと思います。
米山 ああすいません。ちょっといつもと違うので・・・緊張はしてないけどね(笑)。そうですね、欣三さんとの出会いは私が蔵に入った次の年に田植えに行かせてもらって、鈴木君が言ったように自分がまっすぐ植えたつもりが後ろ向いたら全部ギザギザで。ギザギザってことはそこに自分で手で植えに行かなければいけない。そのときからの付き合いですね。
実は工藤以外にもう一人、田んぼの方からハマってしまって蔵に入ってしまった、元々飲食店で店長やってたのがいるんです。あそこでハマってしまった2人が来てしまうってことは、鈴木君もそろそろかな!?(笑)。彼が初めて取材に来たのはちょうど田植えのとき。正直言うと、リュックサック背負ってるから「何やってんだ!」と。普通はそこに来たらまず現場で土に触る、まずそこからだろ。そうじゃなければ農家さんの気持ちなんてわかるわけないだろ! と、まず怒らせていただいた。
夏もヒエとか草がたくさん生えてくるので、一番大変なんですよ。私たちは正直、田植えと稲刈りしか見られないです。だからそういう間にもちゃんと取材に行きなさいと。欣三さんのところではイチジクなんかも作っているので、そういうところも川崎からしょっちゅう来ながら見ていただいた。それによってこういうような機会ができたっていうのはすごくありがたいなっていうのはあります。
で、若水というお米。これは愛知県のお米です。最初のうちは欣三さんに山田錦を作っていただいたんですね。酒造好適米の中で一番有名なのが山田錦。ただ山田錦は若水よりもさらに背が高くなる。酒米っていうのは一度倒れてしまうとアウトなんですよ。もうここで(倒れる直前で)キープしていれば酒米にはなるんですね。背が高いってことは鳥に食われやすいというのもある。
それでうちの会長も「地元でお米を作って、それを地元の人間が、地元の水で酒を造る」。これが本当の地酒じゃないかということで、そこから研究をしながら若水を作っていただきました。まあ正直若水は軟らかいです。うちで使っている中でも異常に軟らかい米です。
米に水を吸わせるのが一番大事な仕事なんですけど、ちょっとでも吸いすぎると割れてしまったりする。うちは精米所を持ってないので精米されたお米を、例えば「今日は50%で磨いてください」と言って、そういう米がやってくるんです。若水は正直ほかの米に比べると割れてます。この時点で割れちゃってる。大きさはバラバラ。そこから造らなければいけない。でも逆にね、その技術がウチに(ある)。最初は大変だったと思いますが、技術がついてきて。
酒造好適米の中でナンバー2の雄町というお米があるんですけど、これもすごい軟らかいお米です。でもそれ以上に軟らかいお米をうちは使ってきた。この2つ(若水、雄町)に関しては蔵の中でも代表的なお酒です。若水は神奈川でも何蔵かやってる蔵があったんですけど、もうほとんどみんなやめてしまい、神奈川の若水の9割以上をうちで扱わせてもらっています。
代表格のお酒がほぼ若水なのでホントのことを言うと「もっと欲しい」ってのはあります。今、若水農家さんは9軒くらいですよね。多分もう増えることもないし、跡取り問題とかもあるので私が鈴木君に言えるのは「うちに来るか、欣三さんの田畑を守るか」(笑)。体が強いうちからお姉さんに教えてもらい、やったほうがいいんじゃないかな? というのが正直ありますね。
鈴木 そうですね、あのーホントにあのー、まあ私の将来はさておきですね・・・
米山 言っとけ!(笑)
鈴木 そうですね(笑)。欣三さんが亡くなった後、マガジンを置いていただくために色々な酒屋さんに行きましたが「これから若水はどうなるのかな?」と、みなさんがすごく心配されていたんですね。そんなお声を聴きながらですね、今年に入って初めて欣三さんのお宅に伺いました。智子さんのお話にもあったようにお母さんと妹さんと3人でやられているんですけど、そのときに「今ある田んぼを全てそのまま守っていく」とすごく力強く断言されたんですね。
みなさんすごく明るい方なんですけども、それは言葉で言うほど簡単なことではないんだろうと思うんですね。「そのまま守る」というのは簡単にできることではないなという気がしました。それをまた酒屋さんにお伝えすると、すごくほっとした顔をして「良かった」と。若水というお米、お酒がそれだけ愛されているということを感じる日々でした。